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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)48号 判決

東京都新宿区西新宿二丁目1番1号

原告

三和シヤッター工業株式会社

代表者代表取締

髙山俊隆

訴訟代理人弁理士

稲葉昭治

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

伊藤晴子

青木良雄

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第1857号事件について、平成5年1月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年6月17日、形態を別添審決書写し別紙第一とする意匠(以下「本願意匠」という。)につき、意匠に係る物品を「建物用窓シャッターのガイドレール下地枠材」(以下「本件物品」という。)とする意匠につき意匠登録出願をした(昭和60年意匠登録願第25579号)が、平成3年1月19日に拒絶査定を受けたので、同年2月14日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第1857号事件として審理したうえ、平成5年1月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月24日原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願出願前の昭和59年6月29日公開の昭和59年実用新案出願公開第96294号公報の第5図に示された意匠であって、形態を別添審決書写し別紙第二とする意匠(以下「引用意匠」という。)を引用し、本願意匠は、引用意匠に類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、両意匠の意匠に係る物品が一致することは認める。

両意匠の一致点の認定は認める。相違点の認定は、相違点〈1〉につき、本願意匠の窪みを「やや奥行のある」と、同〈2〉につき、本願意匠のガイドレール係合片の略半円状片を「小さな」と、同〈3〉につき、本願意匠の上辺部の左端部に形成した倒コ字状片を「小さな」と、右端部に形成した突片を「極小」と、それぞれ認定した点を争い、その余は認める。

審決は、両意匠の類否判断において、上記一致点は、両意匠のみに共通するものではなく、この種ガイドレール下地枠材の普遍的構成態様であることを看過したため、この評価を誤って、これが両意匠の類否を決定する支配的要部であると誤認し、さらに、類否判断の主体となる看者の認定を誤り、あるいは、意匠に係る物品の概念を離れてはこの判断は行いえないことを看過したため、上記各相違点における相違の内容とそれが類否判断に及ぼす影響の大きさの認定を誤り、その結果、本願意匠が引用意匠に類似するとの誤った結論に達したものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  一致点の評価の誤り

審決は、「全体を肉薄状に一体に成形し、長手方向に連続する長尺材であって、その長手方向に対する切断端面形状(・・・)は、基部を、開口部を下方に有する略倒コ字形状としたものであり、その右側辺部において、その略中間部から下端部までを内方に向けて段差状に窪ませているガイドレール取付片を設け、また左側辺部において、その下端部内方にガイドレール係合片を突設して形成した基本的構成態様」(審決書2頁19行~3頁9行)を両意匠の一致点と認定したうえ、「両意匠が共通する全体の基本的構成態様は、両意匠の形態上の基調を顕著に表出しているところであって、その結果、看者に対し両意匠の共通感をもたらすものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要部と認められる。」(審決書4頁7~12行)として、この基本的構成態様が両意匠の類否を決定する支配的要部であると認定したが、誤りである。

すなわち、審決が支配的要部と認定した上記基本的構成態様そのものは、昭和50年8月29日発行の意匠登録第403472号公報(甲第4号証、参考図)、実開昭56-70089号公報(甲第5号証、第4図)、昭和50年8月29日発行の意匠登録第403473号公報(甲第6号証、参考図)、実開昭54-183955号公報(甲第7号証、第2、第3図)、昭和57年9月24日発行の意匠登録第403472類似1号の公報(甲第8号証、使用状態を示す参考図)に示されていることからも明らかなように、本件物品を形成するに当たり避けて通ることのできない本件物品に固有の普遍的な構成態様として、本願出願前既に周知の態様であるから、このような態様自体が両意匠の類否を決定する支配的要素となることはありえない。

被告は、上記各資料における、段差や突片の付加、延長などを問題にするが、これらの形状の違いは、意匠を細部にわたって具体的に観察して把握すべき具体的構成態様におけるものであるにすぎない。

引用意匠も本願意匠も、本件物品は断面倒コ字形を有しておればガイドレールの取付機能等はどうでもよいという段階から、本件物品に固有のこの態様を用いながらも、その範囲内において、いかに意匠的に外観を改善し変更していくかという段階において創作されたものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要素は、上記基本的構成態様にはなく、ガイドレールとの係合関係などの物品の用途、機能について表現した具体的構成態様の相違点に存することは、明らかといわなければならない。

2  相違点についての認定判断の誤り

(1)  類否判断の主体

意匠の類否判断の基準は、一般に、意匠に係る物品の一般需要者の立場から見た美感であり、両意匠に係る物品である本件物品を購入する一般需要者は、シャッターの取付請負業者、建売住宅供給業者、一般工務店等の建築専門業者である取引者であるから、本願意匠と引用意匠の類否判断においてその美感を類否判断の基準とすべき類否判断の主体となるのは、これら建築専門業者である取引者であるといわなければならない。

被告は、類否判断の主体を建築専門業者である取引者に限定する理由はないと主張するが、本件物品の取引の実態を無視したものであり、失当である。

すなわち、本件物品は、住宅用窓シャッターのシャッターカーテンの昇降を案内するガイドレールを組み付けるためのものであり、シャッター構成部品の一部であって、このことからしてこれを直接取引するのは建築専門業者に限られることになり、末端需要者は、シャッターとして完成された商品全体の外観を見て購入の意思決定をするものであって(甲第9号証)、これらの構成部品のみを購入することはありえず、本件物品についても、完成品としてのシャッターを購入することによりその結果として間接的に購入しているにすぎない。

類否判断の主体が建築専門業者である取引者であるということは、両意匠の形態の差異が、建築専門業者としての立場から評価されるということを意味し、そのために、その差異のもたらす機能上の差異が美感の差異として認識されやすくなることを意味するといわなければならない。

ところが、審決は、この点を全く考慮に入れておらず、その意味で、両意匠の類否判断の主体を誤ったものといわなければならない。そして、この誤りが相違点の認定判断の誤りの原因の一つとなっていることは、後に述べるとおりである。

(2)  物品の機能と美感

意匠法2条1項に規定する「意匠」の定義から明らかなように、意匠とは、物品の外観から誘発される美感であり、意匠と物品とは一体不可分の関係にある。そして、物品は必ず一定の用途、機能を有しているのであるから、意匠のもたらす美感は、一般に、加飾の態様や質感などとともに、物品の用途、機能をもその概念の中に包含したものとして把握するのが至当である。

したがって、同法3条1項3号の規定に基づく類否判断は、それぞれの物品本来の用途、機能に基づき、そこから導き出された一般需要者の立場から見た美感を対比観察して行われなければならならず、この点で、物品との関係を離れた抽象的な広く知られたモチーフとの結合を基準として、当業者の立場から見た着想の新しさ、ないし、独創性の有無を判断基準としている同条2項とは発想を異にしている。

このような見地に立った場合、機能の相違をもたらす形態の相違は、その機能の相違を認識する看者にとり美感の相違として認識されることになるのは当然といわなければならない。

ところが、審決は、両意匠の類否判断に当たり、本件物品本来の用途、機能を看過し、これを考慮にいれないままに、両意匠を単に形態としてのみとらえたうえでこれを行ったものであり、この点で既に誤っており、この誤りが相違点の認定判断の誤りの原因の一つとなったことは、次に述べるとおりである。

(3)  ガイドレール取付片の差異(相違点〈1〉)

審決は、両意匠のガイドレール取付片に相違があることは認定しながらも、その内容については、「ガイドレール取付片の窪みの度合が、本願の意匠は、やや奥行のある窪みであるのに対して、引用の意匠はガイドレール側の取付片の厚みだけの窪みである」(審決書3頁12~15行)として、窪みの度合いの差異としてしか認定せず、これを前提に、この相違は「意匠全体から観ればガイドレール取付片部という限られた部位における微差に止まり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていない。」(審決書5頁3~6行)としているが、誤りである。

すなわち、審決は、両意匠とも、ガイドレール取付片の窪みの度合いは、ガイドレール側の取付片が当接する厚み分の厚みのものとして認識され、この点において差異はないものの、両意匠の間には、ガイドレール取付片の段階状に窪ませた当接面について、本願意匠では、当接面を上下に残した中央部に凹溝が構成されているのに対し、引用意匠では、単に全体が平滑な当接面となっているにすぎないという差異があることを看過し、この差異が両意匠の類否判断において有する重要性を全く考慮に入れていない。

ガイドレール側の取付片は、審決書別紙第一の本願意匠の参考図から明らかなように、常に開口部を挟んで対向状態に位置するので、これをねじ固定する際、丸ねじを使用するとねじ頭が露出して外観上好ましくないことから、ガイドレール側の取付片に皿絞り加工を施して、ねじ頭が露出しない皿ねじを使用しようとする場合、ガイドレール側の取付片の裏面側(当接面側)に、絞り加工による突起ができるため、これを引用意匠のもののように単に全体が平滑な当接面となっているにすぎないガイドレール取付片に取り付けようとすると、取付片相互間の当接面の面接触ができないばかりか、左側辺部におけるガイドレール係合片相互の係合すらできなくなる。

本願意匠のガイドレール取付片の上記構成態様は、上記の不都合に対処するため、引用意匠の形状に形状的な工夫を凝らして、ガイドレール側の取付片に皿絞り加工による突起があっても、取付片の当接面同士が接触した状態において、上記突起を収納する凹溝を備えたガイドレール取付片としての外観を呈するようにしたものである。

このような凹溝の有無という形態の差異が本件物品の機能に大きな差異をもたらすことは明らかであり、建築専門業者である取引者が、この大きな差異をもたらす部分の形態の差異を見逃すはずはなく、この点を十分考慮して商品選択の意思決定をするのが普通であるから、この形態の差異は、両意匠の類否を左右する大きな美感の差異となることも明らかといわなければならない。

(4)  ガイドレール係合片の差異(相違点〈2〉)

審決は、両意匠のガイドレール係合片に相違があることは認定しながらも、その内容については、「本願の意匠は内方に湾曲した左方に開口部を有する小さな略半円状片であるのに対し、引用の意匠は内方に直角に折曲した小さな突状片である」(審決書3頁16~19行)と認定したうえ、これを前提に、「たしかにその差異は視認されるものの、半円形状にしろ、突状にしろいずれの形状も取立てて特徴ある形状として評価できるものでなく、しかもそれが左側辺部の先端部という限られた部位における小さな突片の形状の差異であることから、いまだ両者の類否判断への影響は小さいものと云うほかない。」(審決書5頁7~13行)としているが、誤りである。

まず、審決は、本願意匠の略半円状片を小さな略半円状片としてしか認定していないが、同片は、引用意匠との対比において約4倍にもなっており、本件物品本来の用途、機能を考慮すれば、決して小さなものということはできない。

次に、両意匠の上記相違点を本件物品の用途、機能に照らして検討してみると、本願意匠では、ガイドレール係合片が略半円状(U字状)に形成されているので、ガイドレールを取り付けるに当たり、ガイドレールを回動させて取り付けることができるという形状的な工夫がなされた外観を呈しているのに加え、略半円状(U字状)片の左方の開口部は、下地材を躯体に取り付ける際に行われるモルタル外装仕上げに対する見切り縁として機能する外観を呈するものであるのに対し、引用意匠の突状片は、ガイドレールを右側方からの差し込みにより取り付ける外観を呈しているのみで、モルタル外装仕上げに対する見切り縁としての機能を有する外観は全く呈していない。

すなわち、引用意匠は、躯体への取付面が平滑面状になっていることから生ずる問題点として、湾曲歪みが左側辺部に波及した際に、ガイドレール係合片が単に突状であるため、歪みの影響を受けて、長尺なガイドレールとの係合ができる部分とできない部分が生ずるので取り付けづらいという形態のものであるのに対し、本願意匠は、係合片を略半円状にしたことにより、長尺なガイドレールであっても、回動させることにより取り付けが楽になっているという機能的特徴に加え、略半円状(U字状)の開口部が、モルタル外装仕上げに対する見切り縁としても働くという機能的特徴をも備えているのである。

本件物品の使用目的に照らせば、このような機能上の差異をもたらす形態上の差異を、取付工事で使用する部品の形状等につき非常に敏感な建築専門業者である取引者が見逃すはずはなく、このような取引者は、これを美感の差として認識したうえ、十分考慮して商品選択の意思決定をするのが普通である。したがって、この差異は、両意匠の類否を左右する重要な要素であるといわなければならない。

審決は、この点を看過しており、誤っているといわなけばならない。

(5)  上辺部の差異(相違点〈3〉)

審決は、両意匠の上辺部に相違があることは認定しながらも、その内容については、「本願の意匠はその左端部の左上方に開口部を下方に有する小さな倒コ字状片を突設し、右端部からも上方に向けて極小突片を設けているのに対して、引用の意匠にはそれらが存在しない」(審決書3頁末行~4頁4行)と認定したうえ、これを前提に、「上辺部両端部にみられる突片の有無にみられる差異に至っては、それらの突片が、形状も小さなコ字状と極小の突片というありふれたものであり、かつ局部的であることから類否判断への影響は殆んどないものとしか云いようがない。」(審決書5頁13~18行)としているが、誤りである。

まず、審決は、本願意匠の上辺部左端部の倒コ字状片を小さなものと、右端部の突片を極小なものとそれぞれ認定しているが、これらの部分が、小さいか大きいか、極小か否かは、基部の横幅、左側辺部の長さの1割以上を占める倒コ字状片と突片によって形成される凹面部を含めた上辺部全体の形状の一部として把握し、本件物品の用途、機能から見た上記全体形状との相関関係によって定めるべきものであり、これらの部分は、この観点から見た場合、決して小さなものとはいえない。

次に、審決は、倒コ字状片及び突片がありふれた形状であるからその有無には類否判断への影響がない旨認定しているが、およそ物品の形状は、直線、曲線、○、△、□、コ字形、L字形等の要素を組み合わせて、目的、用途等に対応した形状としているものであって、このような物品の一部の形状のみをとらえて、周知の形状であるとか、ありふれた形状であるとかを論ずることが許されることになれば、引用意匠とは無関係に、いわゆる部分的な周知モチーフに基づいて意匠の類否を判断することが許されることになり、引用意匠との対比において、取引者の立場から見た美感の類似を論ずることにならず、法規に反したものとなって明らかに失当である。

さらに、審決は、倒コ字状片及び突片が局部的であることを根拠にその有無には類否判断への影響がない旨認定しているが、本願意匠の倒コ字状片及び突片は、上辺部の左右端部に突設させて中央部に凹部を形成しており、かつ、倒コ字状片及び突片の各部を含む上辺部全体が躯体への取付面を形成しているのであるから、この観点からすれば、倒コ字状片及び突片の有無の類否判断への影響も、取付面との関係において行うべきであるのに、審決は、上辺部が取付面となっていることを全く考慮しておらず、この点で失当である。

すなわち、引用意匠の形態によった場合、躯体への取付面は平滑面となっていて、このような取付面を躯体に取り付ければ、平滑面になっていることと、長尺材となっていることとから、平滑面の躯体にビスで締め付け固定すると、所定ピッチにおけるビス止め部が、締め付け応力により上辺部の両端縁が躯体の取付面から若干遊離するように湾曲歪みを生じ、この湾曲歪みがそのまま左側辺部に波及して、内方に変形する部分が生じてしまうことになり、そのため、ガイドレールを取り付ける際、下地材(本件物品)のガイドレール係合片とガイドレール自体の係合溝との係合がうまくいかず、取り付けづらいという問題点があるのであり(そもそも、この問題を解決せんとして工夫をこらして創作したのが本願意匠であったのである。)、これに対し、本願意匠の形態によった場合、倒コ字状片及び突片がそれぞれ躯体への当接面となって、中央凹部を躯体に当接させない形状となっているので、これにより締め付け応力による上辺部両端部の躯体からの若干の遊離を防止し、その湾曲歪みが左側辺部と右側辺部に波及しないように形状的な工夫がなされた外観を呈している。

しかも、本願意匠の倒コ字状片は、上方への突出のみならず、左側辺部から外側へも突出しており、その突出幅は基部横幅との関係で1割強の割合であり、モルタル外装仕上げの際のモルタルの食いつきを行わせ、仕上げ後におけるシャッターケース下場との当接部から進入する雨水が、左側辺部とモルタルとの間を伝わって、躯体側へ進入するのを防止する水返し片としての機能をも有する。このようなモルタルとの食いつきを行わせる水返し片としての倒コ字状片の存在は、いわゆるモルタル納まりタイプの下地材として用いる場合に不可欠な構成態様であり、これがないものは、いわゆる外付けタイプの下地材として用いるものであるから、この有無は、上記両タイプを区別する重要な要素となる。

このように、上辺部に倒コ字状片及び突片を有する本願意匠とこれらのない引用意匠との間には、上記のとおり明確な機能上の差異があるのであり、この差異が、建築専門業者である取引者に大きな美感の差異として認識されないはずはないから、この差異は、両意匠の類否を左右する重要な要素となるものである。したがって、この点を看過した審決が誤っていることは明らかといわなければならない。

3  結論

以上のとおりであるから、両意匠の類否を決定する支配的要部は、審決認定の基本的構成態様にはなく、具体的構成態様にあることは明らかであるにもかかわらず、審決は、支配的要部は基本的構成態様にあるものとして、具体的構成態様における差異の重要性を看過し、その結果、両意匠は類似しているとの誤った結論に達したものであるから、違法として取り消されなければならない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  一致点の評価について

審決認定の一致点は、両意匠の形態上の骨格を形成する基本的構成態様として、両意匠の形態上の基調を顕著に表出しており、両意匠の類否を決定する支配的要部と認められ、この点についての審決の認定判断に誤りはない。

原告は、審決認定の基本的構成態様は、本件物品に固有の普遍的な構成態様として、本願出願前既に周知の態様であるから、このような態様自体が両意匠の類否を決定する支配的要素となることはありえない旨主張する。

しかし、原告がその主張の根拠とする資料(甲第4~第8号証)に現れた下地枠材の態様は、審決のいう「略倒コ字形状」の骨格部分というべき上辺部に小さいとはいえない段差があったり、「略倒コ字形状」としての印象、統一感に変更をもたらすような小さくはない突片の付加、延長があったりして、いずれも、もはや「略倒コ字形状」の範疇を逸脱した別異の態様といわざるをえないものである。

仮に上記基本的構成態様が原告主張の周知の態様であったとしても、そのことのために、その態様が意匠の要部になりえないわけではなく、周知の態様でない場合に比べて、その余の部分との関係でその意匠的価値に対する評価が相対的に低下することがあるというにすぎない。

そして、本願意匠と引用意匠については、相違点につき審決が述べるとおり、基本的構成態様以外に特に評価すべきものは存在しないから、この基本的構成態様が、全体の基調を現すものとなる。

いずれにせよ、「両意匠が共通する全体の基本的構成態様は、両意匠の形態上の基調を顕著に表出しているところであって、その結果、看者に対し両意匠の共通感をもたらすものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要部と認められる。」(審決書4頁7~12行)として、この基本的構成態様を両意匠の類否を決定する支配的要部と認定した審決に誤りはない。

2  相違点についての認定判断について

(1)  類否判断の主体について

審決は、類否判断の主体を単に「看者」(審決書4頁9行)としているだけであって、原告のいう建築専門業者である取引者を排除していない。また、本件物品につき、施行取付前の一般流通業者や末端需要者等を類否判断の主体から排除すべき理由は見出せない。

したがって、類否判断の主体についての審決の扱いに違法はない。

(2)  物品の機能と美感について

意匠の類否の判断は、本件物品についても、原告主張のように機能自体を第一義的にとらえてなすべきものではなく、機能をも勘案しつつ、意匠の全体の外観形態が看者に与える印象の類否を総合的に判断してなすべきものである。

仮に、本願意匠が引用意匠に対し機能的に変更を加えることによって創作されたものであったとしても、その機能的変更自体が当然のこととして意匠上の評価を受けるわけではなく、機能的変更がもたらした形態の変更が形態全体の印象に顕著な影響を与えることにより、はじめて、意匠の美感を左右するものとなるのである。

(3)  ガイドレール取付片の差異(相違点〈1〉)について

原告は、審決が、本願意匠のガイドレール取付片に凹溝が形成されているのを看過したと主張するが、失当である。

すなわち、審決は、両意匠の対比に当たっては、両意匠が全体として看者に与える美感の類否を判断すればよいこと、本願意匠の凹溝は、外観形態上熟視してはじめて気づくほどであって極めて小さく、類否判断への影響がないことから、「やや奥行のある窪み」(審決書3頁13行)ととらえ、引用意匠のものに比べて窪みの度合いが大きいという形で認定すれば十分であるとの判断の下に、あえてそれ以上に認定するまでもないとしたにすぎず、これを看過したわけではない。

両意匠のガイドレール取付片には、形状において、窪みの度合い及び凹溝の有無という差異があるが、これらはいずれも、上記のとおり、熟視してはじめて気づくほどの微細な形状差であるため全体への影響は微弱であり、また、この差異が本願意匠に皿絞り加工としての機能的効果を生じさせるとしても、この点は、例えば昭和52年7月16日発行の登録意匠第449725類似1号の公報(乙第12号証、使用状態を示す参考図)に見られるように、この種物品の分野では、本願出願前から普通に行われていることであるから、本願意匠独自の特徴ということはできず、新規性に欠け、意匠的価値は低いものといわざるをえない。

これらのことを総合的に見れば、この相違は「意匠全体から観ればガイドレール取付片部という限られた部位における微差に止まり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていない。」(審決書5頁3~6行)とした審決に誤りはないといわなければならない。

(4)  ガイドレール係合片の差異(相違点〈2〉)について

原告は、審決が、両意匠のガイドレール係合片部分を小さなものと認定した点をとらえて、これを非難している。

しかし、ここで問題になるのは、意匠に係る形態であるから、各部の大きさの認定は、意匠全体を観察して、その形態を視覚的にとらえて行われるべきである。そうとすれば、各部の大きさは、3辺部(上辺部、左側辺部右側辺部)から構成された略倒コ字形状の全体の大きさと各部との大きさとを対比観察するとによって行われなければならないことになる。具体的には、略倒コ字形状の3辺の長さの総数値対各部の大きさ、あるいは、3辺で構成された中空部をも含めた全体の大きさ対各部の大きさで観察すべきである。

そして、この全体観察によれば、上記各部が審決認定のとおりの視覚的印象を看者に与えることは明らかであるから、審決の認定に誤りはない。

両意匠のガイドレール係合片の形状の差は、半円状か突状かの差であり、本願意匠の半円状については、昭和59年8月1日発行の意匠登録第630627号公報(乙第7号証)、実開昭58-172646号公報(乙第13号証、第2図)に、引用意匠の突状については、例えば、実開昭57-140506号公報(乙第14号証、第1~第3図)に、それぞれ見られるように、この種物品分野では普通に見られる形状であるから、審決が「取立てて特徴ある形状として評価できるものではなく」(審決書5頁9~10行)と判断した点に誤りはない。

原告は、本願意匠の係合片を半円状にしたことの回動取付機能を強調するが、この取付方法も、上掲の意匠登録第630627号公報(乙第7号証、X-X拡大断面図)、実開昭58-172646号公報(乙第13号証)、実開昭57-140506号公報(乙第14号証)のほか、実開昭58-11512号公報(乙第15号証)にそれぞれ見られるように、本願意匠の属する建築部材の分野において、既に普通に知られた方法であり、この方法に基づき本願意匠のように形状を変更することは、この種物品分野に属する者にとっては容易なことであったということができる。

これらを総合して見た場合、「たしかにその差異は視認されるものの、半円形状にしろ、突状にしろいずれの形状も取立てて特徴ある形状として評価できるものではなく、しかもそれが左側辺部の先端部という限られた部位における小さな突片の形状の差異であることから、いまだ両者の類否判断への影響は小さいものと云うほかない。」(審決書5頁6~13行)とした審決に誤りはないものといわなければならない。

(5)  上辺部の差異(相違点〈3〉)について

審決が、左上辺部の倒コ字状片を「小さな」と、右端部の突片を「極小」と各認定したことに誤りはない。その理由は、ガイドレール取り付け片に関して述べたのと同じである。

また、これらの形状は、倒コ字状片につき、実開昭57-140506号公報(乙第14号証、第3図)が、突片につき、実開昭49-104936公報(乙第16号証、第2図の4)が例示するように、本願出願前から存在するものであって、新規性を欠くから、審決が、これらを「ありふれたもの」(審決書5頁16行)としたことに誤りはない。

原告は、本願意匠の上記倒コ字状片及び突片が、躯体への取付面として、湾曲防止効果等の効果を有することを強調するが、実開昭49-104936号公報(乙第16号証、第2図、第3図)、実開昭58-85086号公報(乙第17号証)に示されているように、上辺部に凹部を設けて原告主張の効果を持たせることは、本願出願前から普通に行われていることであって、新規性に欠け、またこれらの事実に多少の変更を施して本願意匠の態様のようにすることも極めて容易になしうることであるから、上記態様は、本願意匠独自の特徴とはいえない。

これらを総合して見た場合、「上辺部両端部にみられる突片の有無にみられる差異に至っては、それらの突片が、形状も小さなコ字状と極小の突片というありふれたものであり、かつ局部的なものであることから類否判断への影響は殆んどないものとしか云いようがない。」(審決書5頁13~18行)とした審決に誤りはないといわなければならない。

3  以上のとおりであるから、両意匠の全体としての類否につき、「両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、形態上の基調を顕著に表出し類否を左右する支配的要部が共通するのに対し、相違点はいまだ両意匠の基調を打破するまでには至っていないものであるから、結局、両意匠は全体として類似するものというほかはない。」(審決6頁3~9行)とした審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録を引用する(書証の成立は、いずれについても当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を「建築用窓のシャッターのガイドレール下地枠材」とする点で一致すること、両意匠が、審決認定のとおり、「全体を肉薄状に一体に成形し、長手方向に連続する長尺材であって、その長手方向に対する切断端面形状(・・・)は、基部を、開口部を下方に有する略倒コ字形状としたものであり、その右側辺部において、その略中間部から下端部までを内方に向けて段差状に窪ませているガイドレール取付片を設け、また左側辺部において、その下端部内方にガイドレール係合片を突設して形成した基本的構成態様」(審決書2頁19行~3頁9行)を備えている点において一致することについては、当事者間に争いがない。

2  そこで、両意匠の相違点を、本願意匠を示す別添審決書写し別紙第一と引用意匠を示す同第二によって検討する。

審決認定の相違点〈1〉に係るガイドレール取付片の形状の差異は、これを両意匠に係る物品である「建物用窓シャッタのガイドレール取付枠材」(本件物品)全体のうちにおいて見れば、審決認定のとおり、「ガイドレール取付片の窪みの度合いが、本願の意匠は、やや奥行のある窪みであるのに対して、引用の意匠はガイドレールの側の取付片の厚みだけの窪みである」(審決書3頁12~15行)ということができ、この窪みの形状をより具体的に表現すれば、原告主張のとおり、本願意匠では、当接面を上下に残した中央部に凹溝が構成されているのに対し、引用意匠では、全体が平滑な当接面となっているものと認められる。

同相違点〈2〉に係るガイドレール係合片の形状の差異は、上記と同じく、これを本件物品全体のうちにおいて見れば、審決認定のとおり、「ガイドレール係合片について、本願の意匠は内方に湾曲した左方に開口部を有する小さな略半円状片であるのに対し、引用の意匠は内方に直角に折曲した小さな突片状である」(同3頁15~19行)ということができ、この係合片の大きさを子細に見れば、原告主張のとおり、本願意匠のものが引用意匠のものより約4倍大きく現されていることが認められる。

同相違点〈3〉に係る基部の上辺部の形状の差異は、審決認定のとおり、「基部略倒コ字形状の上辺部において、本願の意匠はその左端部の左上方に開口部を下方に有する小さな倒コ字状片を突設し、右端部からも上方に向けて極小突片を設けているのに対して、引用の意匠にはそれらが存在しない点」(審決所3頁20行~4頁4行)にあるものと認められる。原告は、審決が上記「倒コ字状片」を「小さな」と、「突片」を「極小」と認定したことを非難するが、本件物品全体のうちにおいて見れば、これらの大きさを、「小さな」、「極小」と表現して十分というべきである。

3  そこで、両意匠が窓シャッターのシャッターカーテンの昇降を案内するガイドレールを組み付けるための下地枠において顕現される意匠であることを考慮し、この下地枠という物品の用途、機能に留意して、上記一致点及び各相違点に係る構成態様を総合して観察すると、上記基本的構成態様としてとらえたところが、両意匠のまとまった全体的意匠の構成を表現しており、これが両意匠の美感をもたらす基調をなしていると認められるから、これが両意匠の類否を分ける要部となると認められる。

原告は、上記基本的構成態様そのものは、本件物品を形成するに当たり避けて通ることのできない本件物品に固有の普遍的な構成態様であるとして、本願出願前既に周知の態様であるから、このような態様自体が両意匠の類否を決定する支配的要素となることはありえないと主張する。

しかし、甲第4~第8号証によれば、原告がその主張の根拠とする資料に現れた下地枠材の態様は、その長手方向に対する切断端面形状が、本願意匠及び引用意匠の略倒コ字形状をなす部分に対応する基部の上辺部の左方向に、上辺部の長さの約三分の一程度の長さの延長部を設けたものがあり(甲第4、第6号証の各参考図、甲第7号証の第2、第3図、甲第8号証の使用状態を示す参考図)、また、乙第16号証によれば、同様に上辺部の長さの約二分の一程度の長さの延長部を設けたものがあり(同号証の第2、第3図)、これらにおいては、その切断端面形状を「略倒コ字形状」としてとらえ、上記基本的構成態様の範囲内に含まれるとすることには無理があるといわなければならず、他に、これを本件物品に固有の普遍的な構成態様であり周知のものと認めるに足りる証拠はない。

原告の上記主張は採用できず、また、仮に、この基本的構成態様が周知の態様であったとしても、両意匠には、これ以外に、意匠の特徴を示すものとして特に評価すべきものがないことは、次に述べるとおりであるから、これが両意匠の類否を決定する支配的要素となることに変わりはないといわなければならない。

4  これに対し、上記具体的形態における上記各相違点は、上記基本的構成態様に基づき視覚を通じて生起される美感に比し、両意匠を類似の範囲を超えて別個の意匠とするほどの美感の差異を生じさせるに足りるものとは認められない。

すなわち、上記ガイドレール取付片における差異(相違点〈1〉)は、原告主張のように、本願意匠において、ガイドレール側の取付片に皿絞り加工を施して、ねじ頭が露出しない皿ねじを使用しようとする場合、ガイドレール側の取付片の裏面側(当接面側)に生ずる絞り加工による突起を収納する凹溝を設けたことに由来する機能的形態であることは明らかであるところ、このような形態とすることは、昭和52年7月16日発行の登録意匠第449725類似1号の公報(乙第12号証)に見られるとおり、この種物品において本願出願前から普通に行われていたことと認められるから、両意匠を対比すれば、本願意匠におけるガイドレール取付片の形態は、引用意匠のガイドレール取付片に上記機能的効果を得るために部分的改変を加えたものとの印象を与えるにすぎず、類似の範囲を出ないものといわなければならない。

上記ガイドレール係合片における差異(相違点〈2〉)については、乙第7、第11、第13、第14、第16号証によれば、ガイドレール係合片を、本願意匠のように略半円状とし、あるいは、引用意匠のように突起状とすることは、本願出願前から慣用されていた手段であり、したがって、その形状はありふれた形状としての印象しか与えないものと認められ、また、本願意匠におけるガイドレール係合片の大きさは、引用意匠のそれよりも約4倍の大きさであるとはいえ、下地枠全体の中で見れば、左側辺部の先端部の限られた部位における差異にすぎないから、これをもって両意匠全体の美感に差異をもたらすものとは到底いうことができない。

上記上辺部における差異(相違点〈3〉)は、略倒コ字形状の基部上辺部に小さな部品を付加したかどうかの差異としか見られないものであって、全体の美感に与える影響は少ないものと認められる。

原告は、上記各相違点の有する機能上の差異は、建築専門業者にとって商品選択の意思決定をするうえで大きな力を有することを理由に、意匠の類否判断におけるその重要性を根拠づけようとする。

しかし、原告の主張は、結局のところ、形態の差異が機能の差異をもたらすときは、その形態の差異が全体の中でいかに小なるものであっても、当然に全体の美感を左右するとの前提に立つものであって、この前提は認められないから、採用することはできない。類似の意匠の範囲に属する物品であっても、その形態の差異が機能の差異をもたらすときは、おのずと商品選択の意思決定に影響を及ぼすことがありうることは当然のことであり、そのことの故に、本来類似の範囲にある意匠が別個の意匠になるといえないことは、明らかである。

5  以上のとおり、本願意匠と引用意匠とは、両意匠の類否を分ける要部と認めるべき基本的構成態様において一致するのであるから、両意匠は、その具体的形態における差異を考慮しても、全体としては類似するものと認められ、この認定の妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出せない。

したがって、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決に誤りはない。

6  以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

平成3年審判第1857号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

請求人 三和シヤツター工業 株式会社

東京都文京区小石川2丁目1番2号 山京ビル 稲葉特許事務所

代理人弁理士 稲葉昭治

昭和60年 意匠登録願第25579号「建物用窓シヤツターのガイドレール下地枠材」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和60年6月17日の意匠登録出願であって、その意匠は、願書の記載及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「建物用窓シャッターのガイドレール下地枠材」とし、形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。

これに対し、原審において拒絶の理由として引用した意匠は、本願出願前の昭和59年6月29日公開、特許庁発行の公開実用新案公報所載の昭和59年実用新案出願公開第96294号(考案の名称「窓シャッターの取付装置」)の第5図〈3〉に示された意匠であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品は、いわゆる「窓シャッターのガイドレール下地枠材」であり、形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。

そこで、本願の意匠と引用の意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通するものである。

形態については、全体を肉薄状に一体に成形し、長手方向に連続する長尺材であって、その長手方向に対する切断端面形状(本願の意匠では平面図、引用の意匠では5図〈3〉の上半分の下地枠材部を対象とする)は、基部を、開口部を下方に有する略倒コ字形状としたものであり、その右側辺部において、その略中間部から下端部までを内方に向けて段差状に窪ませているガイドレール取付片を設け、また左側辺部において、その下端部内方にガイドレール係合片を突設して形成した基本的構成態様と認められる点が共通するものである。

一方、相違点としては、各都の具体的態様のうち、〈1〉ガイドレール取付片の窪みの度合が、本願の意匠は、やや奥行のある窪みであるのに対して、引用の意匠はガイドレール側の取付片の厚みだけの窪みである点、〈2〉ガイドレール係合片について、本願の意匠は内方に湾曲した左方に開口部を有する小さな略半円状片であるのに対し、引用の意匠は内方に直角に折曲した小さな突状片である点、〈3〉基部略倒コ字形状の上辺部において、本願の意匠はその左端部の左上方に開口部を下方に有する小さな倒コ字状片を突設し、右端部からも上方に向けて極小突片を設けているのに対して、引用の意匠にはそれらが存在しない点において相違するものである。

そこで、両意匠の形態上の共通点及び相違点を総合して検討すると、両意匠が共通する全体の基本的構成態様は、両意匠の形態上の基調を願著に表出しているところであって、その結果、看者に対し両意匠の共通感をもたらすものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要部と認められる。

これに対し、両意匠において相違する、〈1〉のガイドレール取付片の窪みの度合の差異は、その窪みのみを取上げ注視して観察した場合にその差異が認められる程度のものであって、両者に共通するガイドレール取付片部を段差状に窪ませた点が惹き起こす強い共通感の中での差異であって、仮令請求人代理人が主張するように本願意匠の窪みが取付ネジの頭部を突出させないための機能的効果を使用時に有するとしても、下地枠材に限定して観た場合、上記の効果が外観に及ぼす影響はほとんどなく、意匠全体から観ればガイドレール取付片部という限られた部位における微差に止まり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていない。〈2〉のガイドレール係合片の形状の差異については、たしかにその差異は視認されるものの、半円形状にしろ、突状にしろいずれの形状も取立てて特徴ある形状として評価できるものでなく、しかもそれが左側辺部の先端部という限られた部位における小さな突片の形状の差異であることから、いまだ両者の類否判断への影響は小さいものと云うほかない。〈3〉上辺部両端部にみられる突片の有無にみられる差異に至っては、それらの突片が、形状も小さなコ字状と極小の突片というありふれたものであり、かつ局部的であることから類否判断への影響は殆んどないものとしか云いようがない。

そして、これらの相違点を総合しても、両意匠の共通点を凌駕して別具の意匠を構成するほど顕著なものではなく、両意匠の類否の判断に重要な影響を及ぼすものであるとはいい難い。

以上述べたとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、形態上の基調を顕著に表出し類否を左右する支配的要部が共通するのに対し、相違点はいまだ両意匠の基調を打破するまでには至っていないものであるから、結局、両意匠は全体として類似するものというほかはない。

したがって、本願の意匠は、本願の出願前に公開された公開実用新案公報に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、意匠登録の要件を具備しないものであるから、登録をうけることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年1月28日

審判長 特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品建物用窓(タテモノヨウマド)シヤッターのガイドレール下地枠材(シタジワクザイ)

説明 底面図は平面図と対称にあらわれる。

〈省略〉

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 窓シヤツターの取付装置

第5図

〈省略〉

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